はじめに

  細胞表層工学とは,細菌や酵母を代表とする細胞表層に酵素や、レセプターなどの生体認識素子を発現させ,これを用いて医薬や環境浄化に用いる技術です。現在、酵母細胞表層に糖鎖を認識するレクチンタンパク質を発現させ、その応用展開に関する研究を行っています。


研究概要

 本研究では、酵母細胞表層にタンパク質を発現させる技術を用いて、レクチン細胞表層提示酵母を創生し、以下の3課題に取り組む予定です。

課題1.レクチンタンパクの糖認識ドメインを酵母表層に提示するための表層提示プラスミドベクターの構築最適発現培養条件を検討すること。
課題2 糖認識ドメイン表層発現酵母をカラムに充填し、フロンタル・アフィニテイ・クロマトグラフィー(FAC)用担体としての有用性を検討する。グリカンと糖認識ドメイン間の相互作用に関する熱力学的考察を行い、さらに有害な細菌吸着除去剤としての有用性検討を行うこと。
課題3多様なレクチンの酵母表層発現体を構築し、レクチンアレイ分析法へ適用したり、ウイルス除去剤発がんマーカー検出試薬としての可能性を検討すること。

各年度の研究計画

20222023年度:糖認識ドメインの酵母表層への発現
 酵母Saccharomyses cerevisiae MT8-1株の細胞表面に糖認識ドメインを発現させるためのプラスミドを構築)し、最適な表層発現条件を検討する。1ヒトのマンノース認識ドメインをコードする遺伝子、酵母表層発現用ベクター(GPIアンカーを介し酵母細胞表層に任意のタンパク質を発現するためのカセットシャトルベクター)に組み込む。2大腸菌に形質転換した後、表層発現ベクターの必要量を確保し酵母MT8-1株に形質転換する。培地組成や誘導条件(温度、pH、培養終了のタイミングなど)の最適化を行い、糖鎖認識ドメイン表層発現の最適化を行う。糖鎖認識ドメインが酵母表層へ発現されたことを確認するために、FLAG抗体染色により確認する。

 2024年度:糖認識ドメイン表層発現酵母のFAC用担体ビーズとしての応用
 糖認識ドメイン表層発現酵母をマイクロカラムに充填、マンノース、N-アセチルグルコサミン、フコース等からなるオリゴ糖鎖をアナライトとし熱力学パラメータ(kd値等)を見積もる。糖鎖をピリジルアミノ化すれば蛍光顕微鏡で上部から観察し、糖認識ドメインが糖鎖を認識したことを確認できるはずである。マンノース糖鎖認識細菌をモデルとし飲料水からの微生物除去カラムとしての有効性を検討する

20252026年度:その他のレクチン発現体とその有効性
 シアノビリン-Nやセレクチン-Eを始めとした他のレクチン表層発現酵母を作成し、96穴プレートレクチンアレイ分析法(凝集沈殿 or 蛍光パターン糖鎖構造解析)を検討する。